ワインスタイン氏や詩織さんのセクハラ告発事案について思うこと

Jo-B / Pixabay
コアトルの放言

最近、といっても少し前ですが、ハリウッド界の大物プロデューサーである、ハーヴェイ・ワインスタイン氏が、セクハラで告発されたということが話題になりました。

大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの30年にわたるセクハラが告発される
出典:ロイター

ハリウッドの大物プロデューサーとして、多くのアカデミー賞作品を生み出してきたハーヴェイ・ワインスタイン。これまで少なくとも30年以上、多くの女優や女性スタッフにセクシャルハラスメントをしてきたことが今週明らかになった。

新聞「ニューヨークタイムズ」の報道によると、女優のアシュレイ・ジャッドやローズ・マッゴーワンを始め、複数の女性たちがハーヴェイ・ワインスタインのセクハラを告発。アシュレイは20年前、ビバリーヒルズのペニンシュラホテルに「ブレックファーストミーティングをしたい」と呼び出されたときのことを告白している。ミーティングはレストランやロビーではなく彼の部屋で行われ、ワインスタインはバスロブ姿で現れたという。そしてアシュレイにマッサージを求め、彼女がそれを断ると、ワインスタインは自分がシャワーを浴びているところを見るように求めたとアシュレイは語る。また彼女は「パニックになって、罠にはめられたように感じた」と当時の恐怖を振り返っている。

最近日本においても、詩織さんという方が、泥酔している間に望まない交渉をさせられたことを告発したことも報道され、

この場合はセクハラを通り越して強姦に当たるような事案ではありますが、相対的な力関係を背景に、異性が望まないような行為をすることに関して、

これまで以上に注目が集まっていることは間違いありません。

詩織さん性暴力事件「28年間生きてきた中で最も醜い人権侵害」
出典:BLOGOS

以下、私は被害者の方を中傷するつもりは全くありませんので、その点はあらかじめご了承いただきたい。

ここで私が一等申し上げたいのは、セクハラの告発そのものには何か問題がある行為ではないのですが、

安易な秘密の暴露は、得るものが何もない徒労に終わってしまう可能性があるということ。

場合によっては自分だけがより傷つき、阻害されてしまう可能性があるということ。

告発が事件化された場合、相手の人生を壊す可能性があるということ。

そしてマスコミやSNSへの暴露は、今や十分法的な制裁と同程度かそれ以上の力があるということです。



私的な報復か法的な報復か

私は法的理論の高邁な議論をするほどの知識はありませんが、思うに法律というのは、もともと安易な私的な制裁、報復を極力回避するために存在するものと認識しています。

例えば暴行事件などを考えても、やられた方がやり返す、今度はまたやられ返された方が徒党を組んでやり返す、最初にやられた方はさらに大人数でやり返しに行く、、、、

ということが際限なく続いてしまうことを防止するために、法律というものを設けて、私的な制裁を社会的な制裁に置き換えて、私人間のやり取りから切り離すという効果がある。

今回ワインスタイン氏のニュースでは、「告発」という言葉が使われていますが、単にニュースサイトなどで秘密を暴露したことが「告発」と言われていること自体、

多くの人が問題の本質を理解していない証左かと思います。

というのも、「告発」というのはまず刑事事件において使用される言葉であります。捜査機関に対して、「犯罪の事実があるので捜査してくれ」と申告することを意味する。

今回ワインスタイン氏に関する告発は、捜査機関ではなくて、マスコミなどに対して行われたものでありますから、これは全く私的な報復、制裁を目的としたものと捉えるべきであります。

これについて私の正直な気持ちを述べますと、ワインスタイン氏は「俺と寝ないと仕事がねーよ」という脅しによって望まない交渉を強要したということですから、

どう考えても強制わいせつであり、民事どころか刑事上立件されうる犯罪行為を犯していたことになる。

そうであれば、刑事告訴すればよかったのに、あえて民事訴訟ですらなく、マスコミを用いた信用の失墜を狙っており、これは明らかに私的な制裁であります。

セクハラの私的告発は影響力に裏打ちされる

この私的制裁というのは、万人ができうるものではありません。

また、SNSなどの発展など、時代的なものもあるでしょうが、とにかく影響力がなければ、私的な制裁が効果を発揮することは非常に少ないのであります。

ただ、ワインスタイン氏の件が報道されて以降、名もなき一般の女性たちが、SNSなどで、「私も経験がある」というような仄めかしを始め出しましたが、

これは全く意味がないことであって、(というかその行為に意味というか目的があるのかもわかりませんが)こんなことをしても誰も何も得をしない、

ということはよく知っておくべきかと思います。

しかもほとんどの人は、「誰にされたか」を言わずに「ただされたことがある」しかも「どんなセクハラだったか」も書いていないが、こうなるとむしろ周囲の男性から、

「え、ひょっとして俺の何の気無しの発言のことをセクハラって捉えてるんじゃないか」と訝しがられて、図らずもいろんな人から距離を置かれてしまい、

しまいには今度は「モラハラされた」などとカミングアウトしなければならなくなるかもしれません。

こうなってはいけませんので、安易なカミングアウトはやめるべきかと思います。リスクはあってもリターンが全然ないからです。

最も、感傷的なナルシシズム、というとあまりにダサいですが、周囲からの同情を引きたい女性は多いので、ある意味ではその虚栄心を満足させることはできるかもしれませんが、そんなつまらぬ虚栄心の満足よりも大きなものを失う可能性があるということは理解いただきたい。

法的に告発するということ

さて、次に詩織さんの事案のように、刑事告発するという手段について考えてみたいと思います。

この場合はまさに「告発」という言葉が正しく、詩織さんは勇気を持って捜査機関に犯罪の事実を申告されたわけですね。

ただもっと厳密にいうと、わいせつなど、事実が明らかになると加害者の不利益が大きい事案については、告発ではなく告訴が必要です(親告罪)。

刑事上の告発と告訴の違いですが、ごく簡単に例えると、

しずかちゃんが、「先生、のび太くんがいじめにあってます」というのは告発、

「先生、僕いじめにあってます」とのび太自身がいうのがいうのが告訴です。

詩織さんは自ら捜査機関に捜査を依頼したので、刑事告訴した、が正しいのであります。

さて、本件は容疑としては準強姦容疑ですが、準がついているから刑が軽いとかではありません。タバコの箱に「light」とあるから健康被害が少ないわけではないのと同じです。

準がつく場合は、被害者が心神喪失状態またはそれに違い状態において、性交またはその類似行為を行なった場合に適用されるものであります。

ここで心神喪失またはそれに近い状態というのが問題になりますが、例えば終電がなくなるまで、男女二人きりで飲みまくってから、いずれかの自宅にいって行為に及ぶ、などということは、

世界中で毎日のような至る所である風景ですね。

ここで理解いただきたいのは、こういった全ての事案について、女性がその気になれば、例え女性側がその当時は何も悪い気もしていなかったとしても、告訴することが事実上できるということです。

もちろん、違法性が立証されるには、男女の行為前後の行動が重視されるわけですが、少なくとも刑事告訴自体は誰でもができる。

世の中的にみますと、日本の法システムは明らかに被害者に不利だという主張が大勢を締めておりますが、この部分だけ切り取れば、何のことはない、

被害者(になりうる可能性が高い女性)の方が明らかに有利であるように思います。

私のリーガルマインドがそこまで変でなければ、明らかにそのように思うのです。

だいたい、行きずりの情事の後に、仲がこじれたのが原因で訴えられて起訴され罪に問われる世の中なら、刑務所がいくらあっても足りません。
(もちろん、詩織さんの事例がそうだというわけでは全然ないので、それは誤解のないようにお願いしますね。)

補足すると、そういった行為を伴わなくても、以下のような場合は、刑事事件として立件可能と言われています。

中傷(例。交渉を断られた報復に、社内外に事実無根のことを流され、噂を理由に仕事を外されたり、解雇される)
周囲の同調(例。中傷を信じた周囲の異性達が続々と性交を要求したり、断られた報復に集団で被害者潰しにかかる)

詩織さん、ワインスタイン氏事案の共通点

私がこの2つの事案を見て思うのは、いずれのケースも、

被害者は法的な報復は果たせなかったが、私的な制裁を十分社会的なレベルまで高めた上で与えることができた

という点です。

これは全くマスコミやSNSの発達のおかげなのですが、法律によっては罰せられなかったが、社会的な制裁によって、いずれの加害者も十分にダメージを受けたことは間違いない。

私は法律の専門家でもないですが、よくテレビで判決が報道されるのを見ていると、「加害者は十分社会的な制裁を受けたので、情状酌量の余地はある」みたいな主張を見たことがあります。

法的な制裁(=冒頭述べたような社会的な制裁)と、私的な制裁の延長にある社会的な制裁は一面ではトレードオフであります。

ワインスタインの弱みや蛮行を暴露した女優も、詩織さんも、加害者に制裁を加えよう、罪を償ってもらおう、という根本的な目的があったに違いありません。(そうでなければただの売名行為です。)

この目的を達成する手段は、必ずしも法的な手段に限られないという時代ということを理解しておいて損はありません。

何かあった時に、法的な手段以外のやり方で、匿名性を犠牲にせずに、合法的に報復できる手段は何か、ということを考えるのは、これからの時代を生きる上では非常に重要なスキルになってくるでしょう。

ただ、ハラスメント関係で言えば、パワハラだろうがモラハラだろうがセクハラだろうが、その刑事事件化の難しさは同列であり、またいずれのハラスメントが特に問題だということもないというのが私の意見なので、

多くのハラスメント対策と同じように、一刻も早くその人間関係から逃げ出す、ということが取り急ぎの最善策であると言えるでしょう。