わずか200円の名著 「大本営参謀の情報戦記」の書評、感想と見所について

コアトルの書評

多くの最前線の兵士が、無能な参謀の、無謀な作戦に殉じて死んでいったわけですが、そんな救えない時代にも、

 

一人の有能なる情報参謀、堀栄三という人物がいたのであります。

 

作品自体は、彼の陸大卒業から、戦中の行動記、及びそれに当たっての戦略上の反省と考察、そしてまた戦後の自衛隊における活躍を綴ったものであるが、

 

冒頭にもあるように、本論の考察は、戦争にとどまらず、ビジネスの世界においても、情報はいくら重視しても重視しすぎることはないということを教えてくれる名著です。

確かにマーケティングや営業戦略上の、情報の重要性に関する示唆を得たい、という動機で読むのも勿論面白いかと思いますが、

読み物としても、十分面白いです。コアトルはむしろ読み物として面白く読みました。



日米開戦直前まで日本は米軍の暗号を殆ど解読していた

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「太平洋戦争」、「日本」、「情報戦」、というキーワードから連想するのは、「日本の情報は筒抜けで、逆に日本は情報を軽視し、明治譲りの精神論で白兵戦を挑み、屍累々を築いた」などというステレオタイプでありましょう。

 

堀参謀によると、確かにそれは全く事実ではありますが、開戦直前については、むしろ米軍の暗号情報は、関係国からの協力もあり、殆ど解読していた、と言いますから驚きです。

 

しかしその後が悪い。

 

米国は、日本との開戦を予期していたかのように(というか予期していたわけですが)、綺麗さっぱり従来の暗号を変えて、別の暗号を用いたのであります。

 

ですから対米暗号解読は、開戦と同時に振り出しに戻ったのであります。

 

一方の日本軍は、当時世界最高レベルに頑強な暗号を用いていたために、簡単には破られませんでしたが、度重なるミスやずさんな情報管理などで、あっという間に解読されてしまったわけです。

スパイ網壊滅のための日系人強制隔離

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また、米国は、日本のスパイ網を一網打尽にし、壊滅させることを主眼に、日系人の強制隔離政策を実行した、というのも恥ずかしながら初めて知りました。

 

コアトルの記憶が正しければ、教科書的には、日系人の隔離は、反日感情を煽るため、とか日本人による破壊工作を防止する為に実行したと聞いていましたが、

 

本丸はスパイ網の壊滅ということであったということですから、米国の冷酷さをうかがい知れるエピソードと言えるでしょう。

 

実際、この隔離政策のために、明治以来連綿と築かれてきた日本の対米スパイ網は壊滅し、開戦末期まで、ついぞこのルートでは一切の情報ももたらされなかったとのことです。

美人英国人女性を二重スパイに!

コアトルがこの大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇で一番面白く読んだのが、まだ日本が開戦間もない、いけいけドンドンの時に、フィリピン方面でなされた工作です。

 

日本軍の工作機関としては、南機関や明石機関が有名ですが、あの天才スパイ明石元二郎の血脈を継いでいるのか、日本の特務機関は意外と特務機関っぽい仕事をやっていたことは間違い無いようです。

 

堀参謀によれば、1942年ごろ、山路機関という特務機関が、とある美人英国系フランス人で、すでに連合国側のスパイだった人を、籠絡して、顔を整形した上で二重スパイに仕立て上げ、マッカーサー退却後に残地諜者として残ったスパイ網を壊滅させたということがあったらしい。

 

こんなCIAやMI6、モサドやKGBがやっていそうなことを、日本もやっていたというから驚きであります。

 

そしてコアトルが思ったのは、まあよーく考えてみたらですよ、この「工作」という活動においては、実はこれまでも、そして今も、日本では結構あるのかもしれないということです。

 

日本人はいまだに湿り気が多く、責任の所在を曖昧にすることが得意ですし、好きです。

 

明確な工作のための組織を作らずに、まさに第二次世界大戦中に、いろんな特務機関が暗躍したように、プロジェクトチーム単位で工作のための組織があって、

 

機密費とか領収書のいらない金でもって、いろんな活動をしているのかもしれません。

 

だってですね、山路機関、とこれは山路長徳中佐の名前に由来すると堀参謀の本にはありますが、この機関名も、山路中佐も、少なくともGoogle検索では殆ど情報が出てきません。

 

今の時代、ネットでなんでも検索できそうなものですが、山路機関についての検索結果でそれらしいものは、全て出典が堀参謀の著書なのであります。

 

そもそも工作というのは陰謀みたいなものですから、工作が成功しようと失敗しようと、世に出てはいけないものであります。

 

万が一失敗した時に、国家の密命を受けつつも、公式には存在しないのであれば、最初からなかったことにすれば良い。成功すればそれでいいし、暴かれそうになっても、

 

最初からないわけですから、しらを切り通せばいい。

 

こっぴどく負けた戦争中の混乱と、連合軍の重箱の隅をつつくような調査のせいで、たまたまつまびらかになっただけであって、もし、は禁物でありますが、

 

もし日本が勝利していれば、山路機関はもとより、あらゆる特務機関の謀略工作も、一つも明らかになっていなかったかもしれないわけですね。

まとめ

これを最初に言うべきでしたが、よくもまあこんな良書が、わずかKindleなら199円で読めてしまうと言うこと自体、日本国の情報不感症を如実に表しているのではなかろうかと思われるほどである。

 

また拙い感想を述べるならば、堀参謀が言うように、戦後になっても日本はいまだに情報不感症を完治できていない。今もってそうでありましょう。

 

しかし一方で、工作の能力は極めて高いように思われる。

 

これもまた換言すれば、工作は第一線で行われるものであるから、戦闘で言えば兵隊によってなされる。一方で、この工作により得た情報を活用し、戦略を立てるのが参謀であるが、結局のところ、

 

兵隊は世界最強だが参謀は無能と言う構造的問題に終始するのでありましょう。

 

またこれをわが身に還元するのであれば、会社勤めをしていると、どうしても工作という言葉とは無縁の世界に生きているようではありますが、

 

非常に儲かっている企業や、出世している人は、案外工作じみたことをたくさんしているという危険性を考えておいて損はない。

 

そしてもっと言えば、工作活動で得た情報や、操作した情報をうまく用いて、甘い汁をすすっているに違いない。

 

この本を読んで、コアトルはそういう思いを抱きました。

 

そう思うと、日頃代わり映えしないサラリーマン的日常も、なにやら抜き差しならない緊張したものに思えてきて、ワクワクする日常を、少なからず取り戻すことができるような、そんなきっかけを与えてくれる良書であると言えるでありましょう。