先崎九段の「うつ病九段」から学ぶ鬱病②症状としての死の願望と治療の可能性

コアトルの書評

前回のエントリでは、先崎学九段のうつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間を題材に、うつ病一般の普遍的な兆候や原因を検討しました。

 

今回は、うつ病となってしまった場合に生じる症状や、治療の可能性について、同書の記述を参照しつつ、検討していきたいと思います。

うつ病の恐ろしい症状1 死の誘惑

先崎九段のパーソナリティを知っている将棋党には、先崎九段がホームにやって来る電車をみて、「これに飛び込んでしまいたくなる感覚に襲われる」などと述懐しているのを聞いて、衝撃を受けるに違いありません。

 

先崎九段は、そのような陰鬱で絶望的な症状からはもっとも遠い世界にいる存在に思えるからです。

 

しかしうつ病が恐ろしいのは、発症前のその人の明るさや快活さなど全く関係なしに、まさに平等に襲いかかる病であるという点です。

 

先崎九段はうつ病になってからも、しばらく完全休養はせずに、無理を押して対局に望んでいましたが、移動に際して電車を使う際、ホームに入って来る電車を見て、先述の想念に至ったというのです。

 

うつ病は「死にたくなる病気」という表現が本書にもありましたが、感傷的な思春期の少年が、「死にたい」などと軽口でいうものとは全く質の異なる死の願望が、

 

前触れなく現れるというのが、うつ病のもっとも怖い症状なのであります。

 

このような症状にあなたがもし苛まれているのであれば、即刻休職願いか辞表を出す、というよりその前にまずは家に引き返して半年以上は会社を休みましょう。死にたくないのであれば。

うつ病の恐ろしい症状2 強烈なネガティブ思考

先崎氏は、どちらかというと竹を割ったような性格で、後腐れないし、人間関係ではそれほど悩まなさそうなタイプに見えますが、

 

うつ病治療中は、些細なことをマイナスに捉えては、一人で苦しんでいたようです。

【悶々としていると次から次へのネガティブなことを考えてしまう。何を考えていたかと言われても思考全部が暗いことなので、思い出すこともでいない。そもそも人生そのものが失敗だったと考え出すのだから、話にならんのだ。結局八時に朝食を食べるまでつらい時間を過ごした】

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

これはいわゆるマインドワンダリングと呼ばれる症状の典型で、うつ病の罹患有無にかかわらず、

 

こういったネガティブ思考を自身でコントロール出来ずに、どんどん話を膨らませて、荒唐無稽な絶望の世界へ自分自身を押しやってしまうという症状は、

 

ストレス耐性がなく、うつ病罹患率の高い人によく現れる症状です。

 

当然、うつ病になれば、慢性的にこれに悩まされるというわけですから堪りません。

マインドワンダリングは不眠を招く

ネガティブな思考を断ち切れないため、頭は興奮しっぱなしですから、安眠など叶うものではありません。

 

悶々と苦しい夢、起きながらにして悪夢を見て、朝まで過ごさなければならないのです。

 

また、本書でも言及されていますが、うつ病には波があります。

 

朝方がもっとも辛く、頭が石のように重くて、全く思考がまとまらず、とにかくつらいという。「筆舌に尽くし難い」というほどだそうです。

【あなたが考えている最高にどんよりした気分の十倍と思っていいだろう。】

とは先崎氏の言葉である。

 

そうして夜になると少しは気分がマシになるが、それでも睡眠薬がないと寝られなかったと述べています。

 

コアトルが思うに、人間の世界で、この不眠という症状ほど、つらいものはないと想像します。

 

通常睡眠とは、自分がもっとも安心できるスペースで行う、人間に当たり前の生理現象の一つですが、それが、「したくても出来ない」というのは、

 

まさに地獄に似た状況と言えます。

 

コアトルも一時期は不眠に悩まされたことがありまして、その時は朝四時とか五時まで延々と寝られませんでした。

 

今振り返ってみれば、あれでもよく毎日朝起きて会社に行ったものと思いますが、あれが半年も続いていたら間違いなく鬱になったと思います。

 

不眠症にも色々あるでしょうが、うつ病に繋がるような、ネガティブ思考のマインドワンダリングを伴う不眠は予後が悪いため、注意が必要でしょう。

 

先崎氏もそうしていたように、処方された睡眠薬の力を借りることは何も恥ずかしいことではありません。

あるいは、セントジョーンズワートなどのサプリメントから始めるのもいいかもしれません。

 

市販の処方薬でない、睡眠を助けてくれるサプリとしては、上記のセントジョーンズワートのほか、

リラクミンや、マインドガードがおすすめです。





うつ病の治療について

うつ病の治療と聞くと、精神科かどこかでいろんな薬を処方されて、それで薬漬けになって最悪の場合は廃人に。。。。などという変なイメージが出来てしまっているのですが、

 

うつ病の薬として、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が処方されることも事実です。

 

ただ、先崎氏のうつ病九段を読むとわかるように、うつ病治療でもっとも重要なことは、静かな環境で、とにかく何もしない、これに尽きるということでありましょう。

 

本当にあなたがうつ病を治したいなら、働いたりしている場合のではないのです。

「生活リズムを整えるのが治療の大原則」

「時間を稼ぐのがうつ病治療の全てだ」

「医者や薬は助けてくれるだけなんだ。自分自身がうつを治すんだ。」

言うは易し行うは難しですが、うつ病の治療の原則には、そういった考え方があるのだと言うことを、知っておく必要があるでしょう。

うつは必ず治る

人間には考えられないような自然治癒力があるといいます。

 

不治の病もあるでしょうが、そんなものは稀なもので、大抵の病気には人の体は、精神的な病も含めて打ち勝つことができるように出来ている。

 

先崎氏は、自身の経験を経て、立派に復帰されたことで、そのことをうつで苦しんでいる人や、その予備軍の人、うつ病患者を看病する人など関係者に教えてくれたような気がします。

 

本書にもありましたが、先崎氏がうつ病の話をあちこちでするようになると、思った以上に多くの人が、身内にうつ病患者がいるなど、何らかの形で、うつ病患者と関わっていることが判明したと言うことでした。

 

そうしてまた、うつ病という比較的新しい病に対して、多くの人がもつ偏見から、そのことをいい出せない人が多いという。

 

精神科医である先崎氏の兄も、そのような偏見を無くしたいという強い思いを持っておられ、その意思に絆されて、先崎氏は筆をとったのであります。