電通勤務高橋さん過労死事件に見るパワハラに関する無知と正しい見方について

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コアトルの放言

あの日本のエスタブリッシュ企業であり、泣く子も黙る広告代理店電通で、また痛ましい過労死事件が発生してしまいました。

過労死した女性は、家族に「死にたい」と伝えていました。

代理人弁護士によりますと、大手広告代理店「電通」の新入社員だった高橋まつりさん(24)は去年12月、都内の会社の寮で自殺しました。高橋さんの残業時間が100時間を超えていたことなどから、労働基準監督署に過労死と認められました。
高橋さんの母・幸美さん:「命より大切な仕事はありません。企業の労務管理の改善の徹底と国の企業への指導を強く希望します」
電通は「社員の自殺については厳粛に受け止めております。労災認定については内容を把握していないのでコメントは差し控えます」としています。

出典:テレ朝ニュース「死にたい」と家族に…電通社員の女性が過労死

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死に至るまでのなまなましい悲鳴をTwitterに残していたことが、話題性を増幅させているように思われます。

【電通過労死事件】被害者のツイートから浮かび上がる電通の体質

•ほぼ毎日深夜残業で睡眠時間は2〜3時間
•休日出勤も当たり前(他の新卒社員も同様であった)
•性別を理由にたしなめられるようなセクハラがあった
•休日返上で作った資料について「全て無駄である何の意味もない資料だ」等と言われた
•「お前の残業時間は全て無駄だ」と言われた。。。。

等々、他にもツイートには無いような過酷な労働環境やパワハラがあったと推察されます。



被害者の能力問題に還元するということの愚かさ

電通と言えば、コネ入社やブラック企業、政財界の支配的地位、エリート企業など毀誉褒貶が激しい会社の1つです。

 

そういった会社での過労死事件ゆえ、多くの人がこの事件に対するコメントを述べています。

 

世のオピニオンリーダー的な人も色んな見解を出していますが、その中にどうしても解せないものがあります。

 

(ツイートの内容等から見て)高橋さんにも能力が無いなどの非があったのではないか、という主張です。

 

この手の過労死事件においては、このような主張は厳に謹むべきです。

 

というのも、凡そ全てのサラリーマンについて、ミスの無い完璧な人間などいるわけがありません。

パワハラ問題の本質的な問題点は、

•パワハラ野郎は何の理由もなくパワハラするのではなく小さなミスを取り立てる傾向にある
•えてして被害者側は、パワハラやセクハラ被害を誇張して言う傾向にある

という点にあるからです。

 

メール送信時の誤字脱字、誤植、資料作成時の用語の非統一など、およそ日常茶飯事で誰でも起こしてしまうような具体的なミスを取り上げつつ、特定の人に対して、そのミスを理由に侮辱し、馬鹿にし、攻撃するという手法をとります。

 

これは当然と言えば当然で、仮に人事部に通報がなされた際に、言い訳が出来る上、パワハラ加害者である自分自身が被害者であることを装うことが出来るからです。

 

そういうことを考えますと、パワハラと長時間残業で体も心も疲弊し、過労死してしまった高橋さんについて、「本人にも非があった」という主張は成り立ってはいけないのです。

 

そうしないと全てのパワハラ、過労案件について、被害者を救済する事が出来ません。

 

何千人もいる大企業で、若手のたった1人が死に至ったという事実からも、1ミリたりとも被害者の落ち度に還元してはなりません。

 

被害者にも落ち度があった等と言う言説は、パワハラ、過労死問題について極めて無理解であると思います。

 

被害者が東京大学出身者であったことによる妬みの感情もそういった言説を助長している可能性もあると思いますが、そういった事情を割り引いて、この事件を正しく見なければ、過労死パワハラ問題は永遠に解決しないでしょう。

何故辞職できなかったのか

もう1つ、本事件にまつわる意見、疑問の1つに、「何故死ぬ前に会社を辞めなかったのか」というものがあります。

 

これは、個人的には若年労働者を取り巻く労働環境の過酷さが背景にあると考えています。

 

未だに新卒至上主義であり、入社3年以内に辞めた人間は、移り気で根性の無い人物であるとのレッテルを貼られます。(実際にはそれだけで転職出来ない事はありませんが)

 

家族、友人、同僚からそのように言われるというプレッシャーがあるのです。

 

ましてや高橋さんは天下の広告代理店電通勤務です。

 

東大出身というだけでは到底入社できません。

 

過労死するほどこき使われたのなら、コネ入社でもないでしょうから、相当努力して入社したはずです。

 

アメリカのサークル的団体であるフラタニティでは、入る際に過酷な儀式をさせられることで有名ですが、こういった儀式はむしろその団体に対するコミットメントを高める効果があると、心理学の研究で分かっています。

 

敢えて厳しい条件を付けることで、組織の団結と存続を企図しているわけですが、日本のような新卒一発勝負の過酷な就職競争は、それと同じような効果を果たしていると思われます。(勿論適当に就活して、入れるところに入った、というようなモチベーションの人は別ですが、、)

 

こういう条件が重なると、中々若い年次で退職することは難しいのです。

 

私は、今回のようなセンセーショナルな事件を取り立てて、日本の労働市場の仕組みは100%間違っている、等と言うつもりはありません。

 

ただ、私含め、若い世代のサラリーマンで、人間関係や労務環境から来るストレスに押しつぶされそうになっている人は、沢山いるということ、そして、もうどうしても耐えられない、となった時には、迷わず休職や転職や退職を選択出来るようになる事が大事だと思います。

 

これは制度云々の話ではなく、自分自身の決断1つで出来ることです。

 

周囲の目や将来のキャリアなど考える必要はありません。

 

仮に鬱になって休職しても、ブランクがあっても、成功する事は出来ますからね。